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LINE相談でより身近に 発達障がいを支援する「家庭内療育」

特定非営利活動法人ADDS

  • 発達障がいとは心の病気ではなく、脳の機能の違い。発達を支援する「療育」によって成長をサポートできる。

  • 「療育」には、専門家のサポートだけでなく、多くの時間を共に過ごす家族からの働きかけが重要。

  • 「みてね基金」に採択された「特定非営利活動法人ADDS」は、発達に不安がある子どもの家族がLINEで気軽に相談できるプラットフォーム「kikotto(キコット)」の開発に力を入れている。

「みてね基金」では、子どもや家族の幸せのために活動している団体を支援しています。
活動を開始した2020年4月に採択した、第一期1回目の支援先団体の一つが、「特定非営利活動法人ADDS」です。ADDSは、発達支援を必要とする子どもたちとその保護者をサポートし、家庭で取り組む療育を支援する団体です。「みてね基金」の助成を受け、療育支援のプログラムをより広く届けるオンラインでの活動を本格化。
団体が大切にしてきた支援のあり方や活動におけるこだわりについて、共同代表の竹内弓乃さんにお話を聞きました。

特定非営利活動法人ADDS 竹内弓乃さん

保護者とチームになって発達支援をサポートする

「うちの子、もしかしたら発達が遅れているかも?」
「同じ月齢の子と比べて、できることが少ない気がするけど、今すぐ専門家に相談すべき?」
子育てをしながらこんな気がかりを感じたことがある人は少なくないかもしれません。なかなか周りには相談しにくい子どもの発達に関する不安や迷いに寄り添い、発達支援をサポートする団体があります。
2009年に設立された「ADDS」(2011〜特定非営利活動法人)。「発達支援を必要とするすべての人が自分らしく学び、希望をもって生きていける社会をともに実現します」とミッションを掲げ、家庭内療育の伴走支援、支援者の育成、支援の成果を社会に還元するための研究・ネットワーク作りに取り組んでいます。
「療育」とは、障がいやその可能性のある子どもに対して、それぞれの発達の状況や特性に応じて、困り事を解決したり、将来の自立に向けて成長を後押ししたりする個別支援のこと。早期に適切な療育を受けることで、よりスムーズな社会参加が可能になると言われています。

同団体共同代表の竹内弓乃さんによると、ADDSの最大の特徴は「保護者を主体に、チームとなってお子さんの支援に伴走する」という姿勢。こだわりの原点は、ADDS設立のきっかけとなった竹内さんの原体験にあります。
「もともと福祉分野に興味があったわけではなかった」という竹内さんは、慶應義塾大学文学部に入学。好きだった英文学を学ぶつもりでしたが、たまたま始めたアルバイトの一つが自閉症のある四歳の男の子の療育を手伝う仕事。自閉症や療育についての知識をほとんど持ち合わせていなかった竹内さんでしたが、「すぐに夢中になってしまった」と振り返ります。

たった2時間で変わった! 発達支援の魅力を知った原体験

「私が訪問したのは、直前までアメリカで暮らしていたご家族でした。
現地で習得した最先端の療育の手法を帰国後も実践されていた熱心なお母様で、私も見よう見まねで手伝ったのですが、目からウロコでした。
お子さんが、2時間のセッションの開始時には自分では言えなかった言葉が、帰る頃には何度も話せるようになっている。その変化が本当に嬉しくて感動して。子どもの発達に立ち会うってこんなに素敵なことなんだ!とワクワクしました。」

療育支援のやりがいに魅せられた竹内さんは訪問先の家庭を積極的に増やし、気づけば15家庭ほど回っていたのだとか。
子どもたちの発達を引き出すポイントとなるのは「動機付け」。
「例えば、ボールペン一本にしてもただ目の前に見せるのと、ヒュッと目の前で動かして『あれあれ? 今のなんだろうね?』と興味を引くような見せ方をするのでは、子どもの反応は全然違ってきます。触ってみたい、遊んでみたいという動機付けをちゃんとしてあげれば、自然と『ボールペン』や『ちょうだい』という発話につながりやすいんです。」
発達について本格的に学ぼうと心理学専攻に進んで出会った熊仁美さんと意気投合し、一緒に立ち上げた学生団体がやがてADDSに発展したそう。

PDCAサイクルを回して成果を次に生かせる福祉へ

この頃からの活動を通じて大切にしてきたのが「保護者の力へのリスペクト」。 障がいに対する支援というと、「専門家に任せたほうがいい」と思われがちですが、長い時間を過ごす家庭での関わりの中で発見される発達の変化や、日常のコミュニケーションでできる働きかけによって生まれる効果は大きいのだと竹内さんは強調します。
「ただし、どうやったらいいか分からないという方がほとんどです。
私たちが二人三脚でサポートできるように、親子で学べる療育プログラム『
ぺあすく』を開発しました。
都内を中心に3カ所ある直営の拠点に通っていただき個別に指導するほか、家庭でも継続的に療育に取り組んでいただけるよう、支援者と保護者が課題を共有したり記録を簡単に付けられるアプリを開発して使っていただいています。保護者の皆さんと私たちで“チーム”となって連携することで、小さな変化にも気づけますし、効果的な支援につながるんです。」

保護者とのチームワークに加えてもう一つ、ADDSが大切にしてきたこだわりが、研究的なアプローチ。
応用行動分析学(ABA)の考え方に基づいて、子ども一人ひとりの特性に合った具体的な目標を立てて、半年ごとに達成度を見極めて、最適な支援方法を選択していく。「成果を検証しながら手法を磨いていく。(Plan・Do・Check・Actionの)PDCAサイクルをきちんと回していくことを、福祉の分野でも実践していきたいと思っています。」
そんな中、2020年春から社会全体を揺るがす新型コロナウイルスの影響によって、新たな壁に直面します。緊急事態宣言下で外出を控えざるを得ず、「ADDSに通いたくても通えない」という家庭が増え、支援が届きづらい状況が続いたのです。

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より広く必要としてる方へ届くオンラインチャット相談

「すでに支援を行なっていたご家庭に対してはオンラインでつなぐことで、サポートを続けることができました。しかしながら社会全体を見渡せば、コロナ禍で子育てが家庭の中に閉ざされている様子も気になっていました。
より広く、必要としている方に支援を届けたいという思いが強くなったんです。」

「みてね基金」の助成によって新たに誕生した「kikotto(キコット)」は、コミュニケーションアプリ「LINE」を通じて誰でも利用できるオンラインチャット相談サービス。
当初は初回から有料でクレジットカード登録が必要だったことから相談に至る前に離脱してしまう人が多かったという失敗も。改善を重ねて現在は「初回の相談一往復は無料」というアプローチに変え、気軽に発達の悩みを相談できる窓口の役割を果たしています。
相談にあたるのは、ADDSで実績のあるセラピストを中心とした専門家たち。これまでに約300人の登録があり、必要と判断されれば、近隣の療育施設を紹介することも。ただ話を聞くだけでは終わらせず、必ず何らかの具体的なアクションをアドバイスすることを心がけているのだそう。今後はさらに使いやすいシステム開発に力を入れる予定です。

「発達の凸凹は本人のせいでもなく、親の責任でもありません。
発達障がいというとまだどうしてもネガティブな印象を持たれがちですが、一人ひとりに合った学びの環境を整えさえすれば、子どもは必ず成長しますし、その変化に立ち会えることは療育に関わる全ての人たちの喜びでもあります。私たちの活動に少しでも興味を持ってくださったら、雑談の中でもいいので身近な家族やお友達の間で話題にしてもらえると嬉しいです。
必要な方に知っていただき、より地域とつながって社会に貢献していきたいと願っています。」

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取材後記

聡明な雰囲気をまとう竹内さんの表情が一瞬にしてパッと明るくなったのが、活動の原点となったアルバイト体験について伺ったときでした。
子どもの発達に立ち会える感動を肌で感じてきたからこそ、迷わず突き進んできた道。その道のりを振り返ると、きっとたくさんの家族の笑顔が溢れているのでしょう。(ライター 宮本恵理子)

発達障がいという分野に対し、すでにさまざまな取り組みが行われている海外の成功事例を取り入れているADDSさん。日本で暮らす発達障がいの子どもたちがより生きやすくなるために、ぜひ活躍して欲しいと思います。
また、今後は子どもだけに留まらず、大人の発達障がい支援も視野に入れて成長していきたいというADDS竹内さんの言葉に明るい未来を感じました。(みてね基金事務局 関まり)

団体名
特定非営利活動法人ADDS
申請事業名
発達障がい児と保護者の為の駈込み発達相談プラットフォームの構築

インタビュアー/ライター
宮本恵理子
出版社を経て、2009年に独立。主に働き方やライフストーリー、家族をテーマに取材執筆。最新著は『新しい子育て』。
イラスト
ハラユキ
コミックエッセイスト&イラストレーター。国内外で子育てや夫婦関係などを取材する。著書に『ほしいのはつかれない家族』など。

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