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フランスの“1,000人の親”から着想、「親子が離れる時間」に子どもの成長をサポートする仕組みを日本へ
NPO法人ウィーズ
「NPO法人ウィーズ」が、家庭環境で悩む子どもと、親以外の頼れる大人をつなぐことで、親も子どもも孤立しない、豊かな子育て環境をつくるプロジェクトに挑戦中。
2024年11月に、フランス・パリにてモデルとしている事業の現地視察を実施。事業の詳細や、フランスならではの考え方を学んできた。
「地域の大人との関わりって大事だよね」とみんなの意識が変わることで、身近な人に頼りやすい、子育てしやすい社会に変わっていくはず。
「みてね基金」は2020年4月から、すべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界を目指して、子どもや家族を取り巻く社会課題解決のために活動している非営利団体を支援しています。
「NPO法人ウィーズ(以下、ウィーズ)」は、親の離婚など家庭環境に悩む子どもたちを支援する団体です。ウィーズは「みてね基金」第四期イノベーション助成で採択され、「日本版パレナージュ・ド・プロキシミテ:1,000人の親プロジェクト」に取り組んでいます。日本版パレナージュ・ド・プロキシミテとはどのような取り組みなのでしょうか? モデルとしているフランスでの取り組みを視察しての学びなど、理事長の光本歩さんにお聞きしました。
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自身もひとり親家庭で育ったことが、家庭環境に悩む子どもたちの支援に取り組むきっかけに
光本さんが家庭環境で悩んでいる子どもたちの支援に取り組むようになったのは、自身も中学2年生のときに両親の離婚を経験し、父子家庭で育ったことがベースにあります。
「私の両親は金銭面が理由で離婚したので、離婚後、自分の進路選択に不自由さを感じることがありました。親に代わって6歳下の妹の面倒を見ていたこともあり、ひとり親家庭の中でしんどい思いをすることが多かったんです。そんな中で、親の選択がきっかけで子どもの夢や希望が制限される社会はおかしい、と強く感じるようになりました」
光本さんの小学生の頃の夢は学校の先生でした。光本さんが19歳のときに「家庭がしんどいと感じている子どもたちに何かできないか」と考え、個人事業主として低価格の学習支援塾を立ち上げました。ひとり親家庭の子どもたちも多く通ってくる中、「もう片方の親に会いたい」、「会いたくないけど、決まりだから会わなきゃいけない」など、子どもたちの様々な悩みを耳にするようになります。そういった子どもたちのニーズを中心においた事業を運営したいと、2016年にウィーズをNPO法人化しました。
「千葉県柏市を拠点にシングルマザーの支援をされていたNPOの関係者の方に声をかけていただき、親の離婚を経験した子どもの当事者同士として、2010年頃から子どもたちへの支援を始めました。お父さんとお母さん、どちらかに寄りすぎることなく中立に、あくまで子どもたちの立場に立って活動することに力を入れたかったので、ウィーズとして独立しました」
現在は、LINEや対面での相談支援、家庭や学校から一時的に距離を置くことができる居場所である「みちくさハウス」の運営、離れて暮らす親との面会交流支援などに取り組んでいます。
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日本版パランパルミルってどんな事業?
ウィーズが「みてね基金」の助成を活用して実現しようとしているのが、「日本版パレナージュ・ド・プロキシミテ:1,000人の親プロジェクト」です。聞き慣れない言葉ですが、パレナージュ・ド・プロキシミテ(Le parrainage de proximité/以下パレナージュ)とは、「地域密着型の支援活動」といった意味合いの、フランスで幅広く利用されている子育て支援制度です。子育て家庭と地域の大人をマッチングして、週末などの空いている時間を活用し、子どもたちの世界を広げるような活動をサポートしてもらうことができます。サポートしてくれる大人たちは、生活を共にしているわけではないものの、近くで見守ってくれる存在として、“半里親”と呼ばれています。
光本さんがモデルとしているパランパルミル(Parrains Par Mille)は、“1,000人の親”を意味するフランスの非営利組織で、このパレナージュを担う団体として、30年以上前から活動を続けています。
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「15年ほど前にNHKの『CHANGE MAKER(チェンジメーカー)』という番組を見て、パランパルミルの活動を知りました。例えば、美術館に行きたいけどなかなか連れていってもらう機会がない子どもと、美術館によく行く大人をマッチングして連れて行ってもらうといった事例をイメージしてもらうとわかりやすいと思います。
パレナージュは、子どもと地域の大人の1対1の関わりを通じて、地域で子どもを育てていく取り組みです。家庭環境によらず、こういった仕組みがあれば子育てがしやすくなるはずだし、『日本でも実現したい!』と感じました」
ウィーズでは、子どもが「学校や家庭から少し離れたい」と思ったときにひとやすみできる居場所として、温かい食事や布団なども用意されている「みちくさハウス」を運営していますが、受け入れられる子どもの数には限りがあります。行き場のない子どもたちは、同じような境遇の若者が集う繁華街や、SNS上で見ず知らずの他人の下に居場所を求めることもあり、犯罪に巻き込まれる危険性もあります。そこでウィーズは、親以外の頼れる地域の大人を増やすことで、子育て家庭の孤立や家庭崩壊を防ぐための全国的なモデル事業の構築を目指しているのです。
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フランス社会に浸透している、子どもをサポートしてくれる身近な大人とのマッチング制度
ウィーズではその第一歩として、2024年11月下旬にフランスのパリへ渡航し、現地視察を行いました。フランスでは2022年2月に児童保護に関する法律が成立し、子育てが困難な状況にある家庭の子どもには必ずパレナージュを提案しなければならなくなりました。親へのサポートに注力するだけでは児童虐待を防ぐのは難しい面があるため、親以外の力を借りることで虐待を防ごうという方向へ舵が切られたのです。そういった政策の1つとして、パレナージュの有効性に注目が集まりました。
パレナージュはフランス全土で受けることができ、多くの団体が実施主体となっています。その中でもパランパルミルは34年目と長年の実績がある組織です。視察は約1週間の行程で、パランパルミル本部の訪問や、パレナージュに関わる様々な専門職の方へのヒアリングを実施しました。
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「他団体ではオンライン化が進んでいるところもありますが、パランパルミルではパレナージュの質の確保に力を入れていて、必ずすべての子どもに直接会うようにしています。以前は半里親になる人から年会費として5,000円程度をもらっていましたが、現在は年会費を廃止し、活動費の8割を助成金で、残りの2割を寄付金でまかなっています。メトロを運営するRATP(Régie Autonome des Transports Parisiens パリ交通営公団)など、大企業からの支援も多いそうです。
美術館の入場料など、アクティビティに必要なお金は半里親が出していますが、大事なのはお金の支援ではなく、半里親の時間を子どもたちに分けてもらうという考え方です。フランスでは『子どもは国の宝』という考え方が遺伝子レベルで浸透しているんだなと感じました」
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半里親としてマッチングされるのは、経営者や会社役員層が多く、その他会社員など会社勤めの方が6〜7割を占めるそうです。週末の空いた時間を子どもたちに提供する感覚で、できることをできる人ができるだけやる、無理のない形で運営されています。
「日本では、その事業によるインパクトや結果がどうしても求められます。私が学習支援をやっていたときも、通塾していた子が大人になって支援する側に回った事例は、素敵なエピソードとしてとらえられていました。
ところがパランパルミルのイル=ド=フランス地域圏(パリ市とその周辺の7つの県で構成される地域圏)の代表によれば、これまで1,200件程マッチングしてきた中で、パレナージュを受けた子どもが半里親になった事例はわずか2人でした。もちろん『自分が与えられたことを大人になったときに与えられたらいいよね』と話はするものの、恩送りの方法はいろいろあるので、半里親として戻ってくる必要はないという考え方のようです。こういった割り切り方も、とてもフランスらしいなと思いました」
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人と人との関係性をつくる仕事だから、トラブルは当たり前
パレナージュの制度を日本に取り入れる上では、フランスとの文化的背景の違いも考慮に入れなくてはいけません。ウィーズとしても、日本で実施する上では多くの懸念点があったようです。
「トラブルにどう対処しているかを知りたくていろいろ質問したんですが、『これは人と人との関係性をつくる仕事なんだから、トラブルなんて起きて当然でしょ!』とはっきり言われたことが印象的で、パレナージュに関わる方々の覚悟を感じることができました。
そもそもフランスでは、子どもを第三者に預けることに対して抵抗感や罪悪感が少ないんです。日本だと安心安全面を過度に考えすぎてしまったり、親が『自分でなんとかしなくちゃ』とがんばってしまう傾向にあるように思います」
子どもに対する性加害など犯罪防止の面では、法による抑止力も大きいと言います。
「フランスではそういった犯罪に対する罰則・罰金がとんでもないので、やってしまったら人生が終わることをみんなわかっているんです。ただ日本でもすぐに法改正するのは難しいので、関わる大人の選別を厳しくするなど、利用者の安心安全を担保する仕組みづくりが大切だと思います。それから、親だけでがんばらなくちゃという心理的な壁をどう取り払っていけるかが今後の課題です」
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家族が抱える問題を解決するために。時には厳しいことも言うフランスの専門職
また、保護者と半里親、その両者をマッチングする立場のスタッフ間の衝突への対処方法も気になる点でした。
「半里親は、保護者を教育する立場ではないというスタンスがはっきりしていました。親と子どもの関係性が揺らがないように、お金がかかりすぎるところには連れて行かない、無料でできるアクティビティを推奨するといった関わり方がされていますし、半里親がプレゼントをあげたい場合も、親の意向が尊重されています。半里親と親の関係を大事にしないと、子どものためのパレナージュになっていかないという考え方がスタッフ間で共有されていて、勉強になりました」
フランスでは家族内での問題や対立を解決するために、公費で家族セラピー(la thérapie familiale)という心理療法を受けることができ、広く利用されています。セラピーにはカップルで参加することが一般的で、心理療法士などの国家資格をもつ専門職が関わり、1回1時間半のセッションが3回程設けられ、原因や解決策を探っていきます。フランスの重要な家族支援制度の1つとして、今回の視察でも複数の専門職の方にお話を聞く機会があったそうです。
「フランスでは専門職の方が強くて、親にも間違っていることは間違っているとビシッと伝えています。ウィーズでもシングルマザーからの相談を受け付けていますが、DV経験者など過去のことを話したくないお母さんも少なくありません。そんな相談者に厳しく言うと、自傷や自殺につながるのではと飲み込んでしまう部分もありました」
ただ、フランスの専門職の方が、「それで自殺したとしてもあなたのせいじゃない。私は私の仕事の範囲として必要なことを伝える。子どもの親として責任があるなら自殺なんてしないはず」と答えてくれたことは、光本さんにとって大きな衝撃でした。厳しく思えるかもしれませんが、誰かに指摘されなければ変わるきっかけがないことも事実です。
「子どものために親のマインドが変わらないといけないのは、本当にその通りだと思います。専門職の方々は、『親同士がうまくいっていないことによる影響が不登校や暴力という形で出てくるのは、子どもが親を信じているからこそ発信するSOSなんだよ。あなたは子どものために変われる力をもっているはずだから一緒にがんばろう』と励ましながら、愛と信念をもって関わっていることが伝わりました」
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まずは意識を変えていくことから。社会を変える地道な取り組みを重ねたい
フランス視察で多くの学びを得た光本さん。最後に、日本版パレナージュのモデルづくりを進めていく上での意気込みを伺いました。
「同じ親でも、父親側と母親側で見えているものは違います。第三者が相手の視点を想像できるよう整理してくれる家族セラピーのような仕組みが整っていて、フランスは先進的だと改めて思いました。一方で、支援をしていく中で陥る課題や悩みなど、人間の中で起きている葛藤は同じなんだなとも感じました。
視察では、専門職ではなくボランティアが家族に介入する形のパレナージュに対する否定的な意見も耳にしましたし、日本とフランスの文化的な違いもありましたが、それでもパランパルミルのフランスでの34年の歩みは日本版の仕組みをつくる上でとても参考になるものでした。これまでの活動で、日本にも子どもたちをサポートしたい大人がいるという手応えも感じています。同行したスタッフとも、『私たちがやろうとしていることは間違いじゃない』と再確認することができました。
数年後に『地域の大人との関わりって大事だ』と思う人が今よりもっと増えて、社会が変わっていくきっかけになるよう、地道に現場の活動を積み重ねていきたいです」
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取材後記
「日本では親がなんとかしなくちゃとがんばってしまう人が多い」というお話を聞いて、私自身も子どもの部活動の送迎などを他の人にお願いするとすごく負い目に感じるので、ドキッとしてしまいました。自分ではがんばっていないつもりでも、無理をしてしまっている親は思った以上に多いのかもしれません。身近な大人と関わりやすい仕組みができると、ひとり親家庭の子どもに限らず、子どもの育ちが豊かなものになると思います。ぜひ全国で気軽に利用できるような制度になってほしいです!
団体名
特定非営利活動法人ウィーズ
助成事業名
日本版パランパルミル:1,000人の親プロジェクト
インタビュアー/ライター
茨木いずみ(いばらきいずみ)
宮崎県出身。教育系企業勤務、岩手県での復興支援員等を経てフリーランスとして活動。NPO法人の運営等に携わりながら、ローカル、教育等をテーマに取材執筆。
フォトグラファー
Harumi
Lovegraph(ラブグラフ)フォトグラファー
大切な人がいる素晴らしさに
目の前の小さな幸せに気づけるように
記念日もいつもの日常も
決して戻らない大切な時間を
写真というカタチで残します