児童養護施設で働く人を増やし、支え、 子どもたちの未来を照らしたい
NPO法人チャイボラ
★児童養護施設とは、さまざまな事情から保護者と生活することが難しい子どもたちが暮らす施設のこと。
★現在、国内に約2.5万人の子どもたちが生活しています。
★「みてね基金」に採択された「チャイボラ」は、児童養護施設をはじめとした社会的養護施設で働く職員の人材確保と定着を目指す団体。
「みてね基金」では、子どもやその家族の幸せのために活動している団体を支援しています。第二期では、中長期的に事業や組織の基盤を強化し、活動のステージを広げていくための支援を目的とした助成を実施。
採択した団体の一つが「NPO法人チャイボラ」です。「チャイボラ」は、児童養護施設などを含む社会的養護施設で働く意欲のある人と施設をつなぎ、施設で働く人を支援することで、子どもたちが安心して暮らせる環境づくりを目指す団体です。今後、施設の職員向けの相談窓口の全国展開を進める方針に賛同し、助成を決めました。団体設立の思いや、「みてね基金」の助成を通じて解決したい課題について、代表の大山遥さんに聞きました。
約2歳から18歳まで、約2.5万人。
これは、全国の児童養護施設で暮らす子どもたちの人数です。うち半数以上が親からの虐待が原因だと知ると、「児童養護施設は、特別な事情を抱えたごく限られた人のためのもの」と感じる人が多いかもしれません。しかし、「誰にとっても無関係ではない」と、「NPO法人チャイボラ」の代表・大山遥さんは話します。
「施設に子どもを預ける親は、決して“鬼母”や“鬼父”ではなく、ごく普通の親です。そもそも、子育ては親の力だけでは成り立たないもの。たまたま周りの助けが得られなかったり、何かがうまくいかなかったりしたことでつまずき、結果として虐待という行動に向き、施設を頼るようになった人が大半だと思います。子どもへの支援はもちろん必要ですが、その親に対しても『大変だったね。また一緒に暮らせるように頑張ろう。』と、手を差し伸べ合える社会をつくりたいと強く思います。」
児童養護施設の厳しい現実を知り、大企業を辞める決断
父親が塾を経営していた関係から、さまざまな家庭事情を抱える子どもたちと関わりながら育った大山さん。学習意欲に強く影響を与える幼児期の教育に携わりたいという思いから、大学卒業後は、通信教育のベネッセ・コーポレーションに就職しました。
ターニングポイントは入社8年目。リニューアルのたびに破棄される教材を寄付できないかと、児童養護施設で働く知人に申し出たところ、「私は今日も一人で8人の子どもたちを見ている。教材を生かせるような余裕はない。」という現状を知らされました。
子どもたちは愛情を求めている、職員ももっと愛情を注ぎたい、でも余裕がない――。この現実に触れた大山さんはいてもたってもいられず、一週間後に辞表を提出し、児童養護施設で働くために保育士資格を取る準備を始めたのだと振り返ります。
資格の勉強をしながら150人近い学生にヒアリングをした結果、社会的養護分野の人手不足の原因として見えてきたのは、「業界側の情報発信が圧倒的に足りていない」という課題でした。保育士を目指す同級生たちも「児童養護施設で働く選択肢を考えたことがなかった」という人がほとんどだったそうです。
大山さんはさっそく仲間と任意団体を立ち上げ、保育士を目指す学生向けの施設見学会を企画する活動からスタート。多くの学生が参加するようになり、その後、クラウドファンディングで資金を募って、社会的養護総合情報サイト「チャボナビ(https://chabonavi.jp/)」を開設しました。さらに1年後には、NPOとして活動を本格化。「一刻も早くこの課題を解決したいと無我夢中だった」と大山さん。子どもたちとの関わりに追われ、採用広報がほとんどできていなかった施設に対し、「働き手をつなぐ」支援を行ってきました。
当初は「大手企業で働いていたあなたに何がわかるの?」と反発も受けたこともありましたが、自身も非常勤職員として施設で働きながら粘り強くコミュニケーションを続け、信頼を重ねていったのだと言います。
「業界が前に進む変化に立ち会えることに、とてもやりがいを感じています。」
想いを持って働く職員が「限界」を感じないための、相談窓口を開設
現在の事業の柱は、人材の「確保」と「定着」。
確保のための事業としては、「チャボナビ」での情報発信のほか、ニーズの掘り起こしのための大学生や専門学生向けの出張授業(現在はオンライン、年間約1,000人が参加)。採用広報支援に関わる児童養護施設は都内約85%に達し、今後はより若い層に向けての発信を強化していく準備中なのだそうです。
そして、「みてね基金」の助成によって加速しているのが、人材の「定着」を支援する施策です。今年1月に社会的養護施設で働く人のための「オンライン相談窓口」を開設し、チャット形式で職員の悩みや不安、葛藤を受け止める場づくりを進めています。
「コロナ禍の休校やボランティア受け入れ中止など、さまざまな制限によって、職員の負担は急増しました。私の周りでも、せっかく想いを持って働いていた人が、『限界』を口にして離れていってしまったんです。使命感が強いゆえに周囲に弱音を吐けない人も多く、職員のメンタルケアが急務だと感じました。『みてね基金』の助成によって、相談窓口の専任スタッフを雇える体制が整ったので、これから告知を本格化する予定です。施設で働く人が少しでもゆとりをもって、やりがいを感じ、子どもたちと向き合うための伴走をしていきたい。」
相談窓口では、「傾聴・課題の整理・気づきを与える・本人の選択を引き出す」という4つのポイントで不安解消を支援。利用者の満足度は高く、リピーターとしての利用も増えているそうです。
「あと一人いれば」という悔しさ
大山さんを突き動かすのは、施設職員として自身が味わってきた悔しさです。
「自分自身の生い立ちと向き合うことで、心が大きく揺れ動いたまだ幼い子がいました。その日夜、その子が私に『トントンして(添い寝しながら背中に触れて)』と言ってきました。私はすぐに行きたかったのですが、他の子の喧嘩が始まってしまって…。その時間帯は私一人で子ども8人を見ないといけなかったので、駆けつけるしかありませんでした。一時間ほどかけて仲裁して戻ったときには、その子はベッドの隅で毛布にくるまって目を真っ赤に腫らしていたんです。“あと一人いれば”と、悔しくて仕方がありませんでした。」
いかなる状況や理由があれ、親からの愛情を求める子どもが大半です。その子の親は誰も代わることはできません。そんな親と離れて暮らさざるを得ない事情を抱える子どもたちの傷は計り知れない。その子たちに愛情を注げる存在である職員に、もっとパワーを! 社会的養護の世界に深く入り込むほどに、大山さんは使命感を強めています。
「課題はたくさんありますが、職員の確保と定着が進めば、施設で暮らす子どもたちのこころは今以上に満たされて、将来の人生の歩み方も変わるはず。施設に大切なお子さんを預ける保護者に対する支援も、より充実させることができます。日々取り組んでいることが、社会全体の未来を変えるインパクトになると確信しています。」
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取材して感じたこと
バイタリティの塊。まさにそんな表現がぴったりな大山さん。その源は、児童養護施設の現場で働く中で体感するシビアな現状が、自らのアクションで「確実に変わろうとしている」とつかめる手応えなのだそうです。社会課題を解決する使命感が放つ“陽”のオーラが印象的でした。
団体名
NPO法人チャイボラ
申請事業
社会的養護施設相談機関「社会的養護職員相談窓口」の全国展開
インタビュアー/ライター
宮本恵理子
出版社を経て、2009年に独立。主に働き方やライフストーリー、家族をテーマに取材執筆。最新著は『新しい子育て』。