子どもたちの心を支える思い出を 「ブックサンタ」に込めた願い
NPO法人チャリティーサンタ
「NPO法人チャリティーサンタ」は、クリスマスイヴの夜、子どもたちにプレゼントと「心に残る」思い出を届けている団体です。
「みてね基金」で採択された「NPO法人チャリティーサンタ」の「ブックサンタ」事業では、寄付された絵本や児童書を困難な環境に置かれた子どもたちに届けています。
サンタは子どもの優しい味方
サンタがプレゼントを持って自宅にやってくる。そんなサプライズで子どもたちに笑顔を届けているのは、多くの人とサンタ活動を広げる「チャリティーサンタ」です。2008年の活動開始から13年。全国30都道府県で累計1万8千人以上のサンタ(=ボランティア)が参加し、4万人近くの子どもたちにプレゼントを贈り届けてきました。サンタへの想いがある家庭の子どもであれば、0歳の赤ちゃんからプレゼントを受け取れるのが特長の一つです。
サンタを自宅に呼べるだけでなく、誰かのサンタになれることも「チャリティーサンタ」の大きな魅力です。サンタを希望するボランティアスタッフは、サンタのふるまいを身に付けるための事前研修を受けるほか、子どもたちが普段頑張っていることを事前に保護者から聞き、クリスマスイヴの夜、子どもたちに言葉をかけます。
また、チャリティー募金として、サンタを呼ぶ家庭やボランティアスタッフ、広く一般の皆さんも「チャリティーサンタ」に寄付をすることもできます。集まった寄付金は、経済的に厳しい家庭や被災地の子どもたち、児童福祉施設等に無償でサンタがプレゼントを届ける「ルドルフ基金」で活用されています。
人から受け取った善意はどう返せばいい?
「チャリティーサンタ」の活動を清輔さんが始めた大きなきっかけ。それは、学生時代からの趣味だったヒッチハイクをしていた時のことでした。当時、多くの人の車に乗せてもらい、家に泊まらせてもらっていた清輔さん。ある日、同じように車に乗せてくれたのは有名なお寺の僧侶でした。一期一会の出会いも多かった清輔さんは、受け取った善意をなかなか相手に返せないでいることに悩み、車の中で僧侶に相談したそうです。すると、返ってきたのはこんな言葉でした。「誰かからもらった恩は、その人でなく、次に出会った人へ渡せばいいんだよ」。
「聞いた瞬間、『これだ!』と思ったんです。僧侶は『恩送り』の話を僕にしてくれたのですが、あの時、これからの人生のテーマにしようと決めました。」
その後、途上国の子どもたちを支援したいと模索する仲間と出会った清輔さんは、「子どものために何かしたい」という二人の想いを実現することに。語り合う中で、清輔さんが6歳の頃にサンタが自宅に来てくれた時のすごくうれしかった気持ちを思い出し、「クリスマスにサンタがプレゼントを届けることをチャリティー(慈善活動)につなげよう」と行動に移します。こうして、2008年、「チャリティーサンタ」の活動が生まれました*。
「関わる人すべてに想像を超える喜びを届ける」。そう決めて初回のサンタ活動を行った清輔さんたちでしたが、予想外の反応を得ます。サンタが自宅に来た家庭だけでなく、サンタを希望したボランティアスタッフから喜びの声をたくさんもらったのです。「これまでのクリスマスで一番良い日だった」、「今度は地元の子どもたちにも届けたい」。ボランティアスタッフは口コミでどんどん増え、各地に支部が作られ、輪が広がっていきました。
くじけそうな時に支えてくれる記憶を
ボランティアスタッフの増加とともに試行錯誤しながら進化を遂げた「チャリティーサンタ」。活動を始めた6年後の2014年、任意団体からNPO法人へと組織化を進め、2015年には大規模な顧客調査を実施。すると、すべての家庭の子どもたちに届けたいという想いを持ちながらも、届け先の大半が比較的経済的に余裕のある家庭だったことがわかりました。
経済的に厳しい家庭へ負担のない形でプレゼントを確実に届けるため、2015年、新しい取り組みとして寄付をもとにした「 ルドルフ基金」をスタート。さまざまな企業や団体と協働しながら活動を拡大していきます。見直しを繰り返していた団体のミッションは、「子ども達に愛された記憶を残すこと」に決まりました。
「一つでも心に残る思い出や記憶があると、くじけそうになった時に自分を支えてくれます。サンタの活動を通していろいろな大人が子どもたちを思いながら動いていることは、何らかの形で子どもたちにも伝わると思うんです。何年も経ってから、『あの時のサンタは何だったんだろう』と振り返ることで気づくかもしれない。その時のための手紙も保護者の方にお渡ししているのですが、『自分は愛されていた』という記憶になればいいなと思います。」
2017年には、経済的な事情を抱えた家庭や被災地の家庭など厳しい環境に置かれた子どもたちに絵本や児童書を届ける「ブックサンタ」を始めました。各地の協力書店で子どもたちに読んでほしい本を購入し、その場で寄付することで、「チャリティーサンタ」のサンタたちが子どもたちの自宅へ届ける仕組み。近所に協力書店がない場合でも、ウェブサイト上のオンライン書店で同じように購入した本を寄付することができます。
「ブックサンタ」は、年々、サンタの訪問を希望する家庭も寄付される冊数も増え続け、児童福祉施設等や全国の子ども支援団体の協力も得ながら、2020年は約1万4千人の子どもたちに届けました。今では「チャリティーサンタ」のメインの取り組みの一つになっており、今後は「みてね基金」の助成のもと、事業と組織の基盤、また協力企業や団体とのつながりを強化し、活動の幅をより広げていきたいと清輔さんは話します。
「すべての子どもたちにサンタとの思い出を届けたいです。困っている家庭の子どもたちとは一年を通して思い出をつくりたい。そうできるように、今はもがいています。」
子どものために何かしたい大人は多い
文部科学省は、2021年9月、小学生の頃に「体験」の機会に恵まれた子どもは、家庭の経済状況に左右されることなく、高校生の頃の自尊感情が高くなるという調査結果を発表しました。** また、清輔さん自身、困りごとを抱えた人たちを支援する団体の代表の方から、「特に幼少期の頃に人に思われたり助けられたりした経験をすると、たとえ年に数回会っただけの人でも、その人に何かを感じれば、何年か経って困った状況に陥った時、一人で抱え込む前に頼ってくれることがある」と実感のこもった話を聞いたそうです。
「チャリティーサンタ」では、2歳から10歳までの子どもにプレゼントを届けることが多いと清輔さんは話します。「子どもたちの心に残る」ことを大切にした想いは、きっと成長した子どもたちの心も温かく励ましてくれるに違いありません。
「活動を続けていると、個人や法人関係なく、いろいろな方がアクションを起こしてくれるんです」と清輔さん。「たくさんの人とのつながりが生まれることがモチベーションの一つになっています」とも話します。
「子どものために何かしたいと思っている大人は多いんだと思います。でも、関われる機会がなかなかないのかも。『チャリティ―サンタ』は参加しやすいのかもしれませんね。なかでも『ブックサンタ』は書店で本を購入するという普段の行動が寄付に結びついています。今年もたくさんの子どもたちに本と思い出を届けたいので、気になった方は書店をぜひのぞいてみてください。」
2021年度の「ブックサンタ」は、11月1日から12月24日まで***絵本や児童書を募集しています。寄付された本は、クリスマスを中心に、子どもの誕生日などにも特別なプレゼントとして困難な環境で頑張る子どもたちへ届けられる予定です。詳しくは特設サイトまで。誰もがサンタになれる「チャリティーサンタ」の取り組み。あなたも今年、サンタになって子どもたちに思い出を届けませんか?
https://bookshop.charity-santa.com/
取材して感じたこと
「活動を続ける原動力を教えてください」という質問に、清輔さんは丁寧に言葉を選びながら、「僕個人の話でいうと、仲間がいてくれることに尽きるかもしれません。彼らがいてくれるからここまで根気強く活動を続けられたのだと思います」と答えてくれました。「チャリティーサンタ」の活動は、関わった大人にもかけがえのない時間を届けているのだろうと感じた答えでした。清輔さんやスタッフの方を中心に大人たちの想いをつなげて、これからもたくさんの子どもたちに思い出を届けてほしいと思いました。
*「チャリティーサンタ」の活動を始めた当時は、開発途上国の子どもたちの教育支援を視野に入れて活動を展開。現在は、「Santa Mothers Dream」として、ネパールの母親の就労を支援することで子どもたちの教育支援につなげるプロジェクトを行っています。
**文部科学省「令和2年度青少年の体験活動に関する調査研究結果報告 ~21世紀出生児縦断調査を活用した体験活動の効果等分析結果について~」(2021年9月8日発表)
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_00738.html
**2021年度の「ブックサンタ」は、目標数の6万冊に達し次第終了予定です。