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子どもと対話しながら考える「子どもの権利ノート」、二人のママが読んでみた

「こどものけんりって、なに?」

子どもに聞かれたら、あなたはどう答えますか?

近年、子どもの声を聴き、子どもが意見を言うことを支援する「子どもアドボカシー」に注目が集まっています。子どもに対して、子どもにも意見を言う権利があることを伝え、意見を言うためにはどうすれば良いのか、どう言葉にして、どう表現すればいいのかを考える手助けをする活動のことです。

子ども自らが考え、意見を言う。その権利を有している。一見当たり前のように聞こえますが、家庭、学校、社会などのさまざまなシーンで、すべての子どもが意見を言える環境にあり、子ども一人ひとりの意見が尊重されているかと問われると、どうでしょう。家では聴いているけど、学校では聴いてくれているのだろうか。そもそも、子どもが社会に対して意見するって何? 「子どもアドボカシー」は新しい概念なので、違和感を覚える方もいるかもしれません。

子どもたちの中でも「社会的養護(*1)」と呼ばれる、施設(*2)や里親(*3)家庭で暮らすの子どもたちは、特に声を上げにくいことがあります。そんな子どもたちが自分で考えて意見を述べられるよう、「子どもの権利ノート」が完成し、2022年度から配布されています。「みてね基金」第二期ステップアップ助成でご支援した「NPO法人子どもアドボカシーセンター福岡」と福岡市が合同で作成したもので、冊子は全部で4種類。すべて無料で公開されており、福岡市の公式ウェブサイトでPDF版がダウンロードできます。

この「あなたによりそう『子どもの権利ノート』」を、みてね基金事務局の子育て中の二人のママが読んでみました。

(左から)みてね基金事務局 関、北
「NPO法人子どもアドボカシーセンター福岡」さんにお送りいただいた「権利ノート」

子どもの権利とは? 子ども自身が自分の声に気づくためのノート

みてね基金事務局 関(以下、関):北さんは「子どもの権利」と言われると何を思い浮かべますか?

みてね基金事務局 北(以下、北):まず想像するのは、学校に通えたり、自宅で安心して過ごせたりすることでしょうか。 

関:そうですよね。この「子どもの権利ノート」は、そういったことが当たり前ではない子どもがまず自分の権利を理解するため、そして子どもたちを保護し成長する環境を提供する里親や児童養護施設で働く大人がその子どもの声を理解するために作られたそうです。

あなたによりそうけんりこどものノート(ひらがな版):目次

北:「子どもの権利」と言われるとむずかしそうですが、このノートは絵柄がとてもかわいいですし、言い回しもわかりやすいですよね。「はじめに」に「困ったとき、悩んだとき、暇なときに開いてください」と書いてありますが、暇なときという気軽な感じも読みやすくて好きです。 

関:「権利」と言われると重いテーマですが、重苦しく感じないですよね。「いつまでくらすと?」とか「すきなふくをきたり、すきなかみがたにできると?」と、子どもらしい素朴な疑問が福岡弁で書かれているところもいいな、と思いました。中身も読むだけではなくて、子ども自身が自分の気持ちと向き合い、考え、記述しながら読み進める形式になっているんです。

北:子どもが考えを書く欄と、大人がお返事を書く欄がありますね。子どもが質問をきっかけに考えて、自分の気持ちを整理して書き出す。書いた内容は周囲の大人から返事がもらえる。とても丁寧なアプローチですね。

関:子どもは自分自身と、大人は子どもと向き合える良いツールです「あなたがしせつでくらすのはあなたのせいではありません。それには、ひとりひとり、りゆうがあります。」という一文。何らかの理由があり、親と一緒に暮らさない子どもにとって、このようなメッセージを文字や言葉にして改めて周りの大人に言ってもらうことは大切ですよね。

「ぼうりょくを うけたらどうするの?」子どもに聞かれたら

北:「なんで しせつで くらすの?」「ぼうりょくを うけたらどうするの?」。子どもに聞かれたら私、どう答えるだろう……。 

関:難しい問いですよね。大人に対して聞けない子どももいるように思います。でも、このノートが代わりに声を聞いてくれる。暴力とは何か、心をどうやって守るのか、といった説明しにくいトピックについても優しい言葉で説明されています。

北:「あなたはオトナにまもってもらえるよ!」という表現、とても暖かく感じました。 

関:「おややきょうだいのこと、きいてもいいの?」というページもあります。さまざまな理由で親や兄弟と離れて施設や里親と暮らす子どもにとって、あたりまえの疑問です。でも聞けない、聞きにくいと、子どもも心の奥底で思っているのだと思います。

関:私は「たべることや べんきょうするのと おなじように、あそぶことや やすむことは、とてもたいせつなことです」という部分を読んで、自分の子育てを振り返りました。 

北:子どもの権利条約(*5)で、「第31条 子どもは休んだり、遊んだり、文化芸術活動に参加する権利を持っています」と定められているのですね。遊ぶことは、子どもの権利。 

関:自分の子どもにはついつい勉強ばかりを強制してしまいそうですが、子どもが休みたい、遊びたい、と言う意見に耳を傾けることは大切なこと、と改めて認識しました。

子どもが意見を言う、大人は耳を傾ける。そんな世界を目指して

北:全部読み終わりましたね。関さん、どんな感想を持たれましたか? 

関:そうですね。さまざまな理由で、親と離れて暮らす子どもにとって、疑問に思っても誰に聞けばよいのか、そもそも聞いてよいのか迷って、結局聞けなくなってしまうことがたくさんあると思うんです。このノートには、子どもたちが思っていても口に出せないような気持ちの“例”がたくさん書かれています。この“例”を見た子どもたちは「聞いていいんだ!」と安心感を覚え、自らの気持ちを表現しやすくなるのではないかと思いました。北さんはどうですか? 

北:私はこのノートを読んで、子どもに向き合う時に、子どもを一人の人として尊重し接するための姿勢を学んだ気がします。今までも尊重していないわけではなく、うまく言葉にできないのですが……。 

関:わかります。このノートを読んで、「子どもの権利」を大切にするということは、子どもの素朴な疑問に寄り添ったり、普段から話をよく聴いてあげることなんだなと改めて思いますよね。 

北:ほんとですね。このノートが多くの大人や子どもの手にわたり、子どもも大人も自分のことを大切に想い、安心して自分の意見を言える世界が広がっていくと良いですね。

団体名
NPO法人子どもアドボカシーセンター福岡(申請時:子どもアドボカシーセンター福岡 設立準備会)
申請事業名
子どもの声を聴き、子どもを守る「アドボカシーセンター」の設立

*1 社会的養護:保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと。
*2 施設:「社会的養護」と呼ばれる、さまざまな事情で家族と離れて暮らす子どもをに対し、安定した生活環境を整える児童養護施設のこと。
*3 里親:「社会的養護」と呼ばれる、さまざまな事情で家族と離れて暮らす子どもを、家庭に迎え入れ、温かい愛情と正しい理解を持って養育する親のこと。
*4 ファミリーホーム:「社会的養護」と呼ばれる、さまざまな事情で家族と離れて暮らす子どもを、里親や児童養護施設職員など経験豊かな養育者がその家庭に迎え入れて養育する「家庭養護」のこと。
*5 子どもの権利条約:子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約。