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「SALA=学校」+「SUSU=がんばって!」未来のカンボジアを担う若者に「頑張れる力」を

特定非営利活動法人SALASUSU

「みてね基金」では、子どもや家族の幸せのために活動している団体を支援しています。
今回紹介するのは、2021年3月に採択した第二期ステップアップ助成の支援先団体の一つ、「特定非営利活動法人SALASUSU(サラスースー)」です。カンボジアの農村に暮らす女性に向けて「ものづくり」を通じた教育支援、大学生を対象としたキャリア支援を行っています。助成事業で挑戦する新たな取り組みについて、理事長の青木健太さんにお話を聞きました。

特定非営利活動法人SALASUSU 理事長 青木健太さん

工房でのものづくりで伝えたいのは技術よりも「ライフスキル」

「特定非営利活動法人SALASUSU」の出発点は、20年前に遡ります。当時、大学生だった村田早耶香さんが中心となって立ち上げた「かものはしプロジェクト」。「子どもが売られない世界をつくる」をミッションに掲げ、世界の人身売買の問題を解消するために結成された団体です。活動はカンボジアからスタートしました。

設立メンバーの一人だった青木さんは、2009年にカンボジアに渡り、「コミュニティファクトリー事業」に従事。貧しい農村に生まれ育ち、経済的な自立が難しい状態にあった女性たちが社会へ踏み出す力を習得できる場として、鞄や布製品などの雑貨をつくる工房を運営し、10年以上にわたって維持してきました。

その後、カンボジアでの人身売買問題解消に向けた取り組みに目処がついたことで、かものはしプロジェクトは活動の拠点をインドへ。青木さんはコミュニティファクトリー事業を引き継ぐ形で、新たに「SALASUSU」を立ち上げました。

「ものづくりを通して彼女たちに得てほしいのは技術だけではありません。仲間と力を合わせて何かを成し遂げていく『ライフスキル』を身につけてほしいと思っています」と青木さん。団体名の「SALASUSU」とは、「SALA=学校」と「SUSU=がんばって!」という言葉を組み合わせたもの。お互いの人生を応援し合い、学べる場を目指してきたと言います。

工房でのものづくりの風景

「頑張れる力」は当たり前じゃない すべては人生の旅路の通過点

ただし、現実にはさまざまな苦難がつきもの。せっかく街で就職できたのに、「アパートの見つけ方が分からなかった」といった理由で4日で村に戻ってきてしまった女性もいたと振り返ります。

「『チャンスを前にしながら、どうして頑張り切れないのだろう』と歯がゆい思いは何度もしました。でも、ある時、ふと疑問が沸いたのです。僕自身が『頑張ればきっと人生が開ける』と信じて大学に進み、今日まで仕事ができたのはなぜなのかと。それは僕が元々持っていた力ではなく、周りの人の応援や後押しによって自分を信じることができたから。どんな経験も人生の糧になると信じ、自分自身が人生という旅の主人公である――そう思えることは決して当たり前でないのだと学びました。」

現在掲げるミッションは「すべての人のLife Journey(人生の旅)を応援する」。卒業や就職といった分かりやすい達成だけを成功と捉えるのではなく、失敗や停滞も人生の旅路の通過点。長い目で個々の成長をサポートする姿勢を大事にしているのだと青木さんは語ります。具体的には、ものづくりを通じた教育機会の創出と、工房で働く女性たちを支援する「ライフスキルトレーナー」と呼ばれる教師の育成を行ってきました。

「4日で村に戻ってきた10代の女性は、その後、工房で働くことになったんです。しばらくして『将来の希望は?』と聞くと『ライフスキルトレーナーになりたい』と。中学校を中退した後にいろいろな失敗を経て自信を失いかけていた彼女が、高校卒業レベルで挑戦する資格を目指そうとしていることを知って、心から嬉しくなりました。今は僕たちの団体を手伝ってくれて、イキイキと活躍してくれています。」

工房でのライフスキルトレーニングの様子

インターンシッププログラムの卒業セレモニーで見た忘れられないシーン

都市部から離れた工房を中心に活動をしてきた「SALASUSU」でしたが、工房で雇用できる人数には限りがあります。4年ほど前から、より多くの人の支援に関わる方法を模索していたそうです。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、観光客向けの雑貨収入が減少したことも重なり、新たな事業として公的な職業訓練校や大学と連携したインターンシッププログラムを始めることに。これが「みてね基金」の助成事業として採択されました。 

「就職を目指す生徒たちに、実社会で力を試す機会を提供したい」と考える職業訓練校や大学にとっても、インターン受け入れ実績豊富な「SALASUSU」との連携はメリットが多く、「Win-Win」の関係で実施が決定。2022年の第1期には17人の生徒が企業のインターンシップに参加し、電気系統のメンテナンスやCADデザイン、プログラミングなど、技術を生かした職業体験を積むことができました。うち8人は受け入れ先の企業に正社員としてオファーされるという成果も。しかしながら、青木さんが一番嬉しかったのは、その結果そのものではなく、一人ひとりの身に起きた“変化”に立ち会えたことだったとふり返ります。

「インターンシッププログラムの卒業セレモニーに同席したとき、代表として挨拶をすることになった職業訓練校の男の子がいたんです。彼が出番を待つ席の隣に僕も座って一緒にいたのですが、ふと横を見ると、その子の足が震えているんです。経験したことのない舞台を前に緊張していたのでしょう。そしてその後、立派にスピーチをしている姿を見て深く感動しました。むやみに手を出さず、その人の力を信じる。『足が震えるほどの舞台』を用意できることもまた、僕たちができる応援なのだと、活動の意義をあらためて認識しました。」

インターンシッププログラムの卒業セレモニーにて

直接関わる身近な関係性をちょっとだけ心地よくする

カンボジアに移住して14年目を迎えようとする青木さんは、現地で子育てをする父親でもあります。日本で子育てをする皆さんへのメッセージとして「身近な社会を大切に」と投げかけます。

「社会貢献というと、すごく思い切った行動を始めないといけないと考えがちですが、『社会』とは一人ひとりにとって身近な地域の関係性のことだと僕は思います。例えば、自分の祖父母との関わり方であったり、子どもが通う保育園や習い事での活動であったり。自分が直接つながる関係性を、今よりも楽しく、居心地良くするために何ができるかを考えて、少しずつ行動してみること。僕も『自分の地元をより良くしたい』という感覚で、カンボジアの活動を続けています。一緒に、身近な社会を盛り上げていきましょう。」


取材後記

インタビューは、カンボジアに暮らす青木さんとオンラインでつないで。「60歳くらいになったときに、工房から巣立ったみんなを集めて同窓会を開くのが夢」と語った青木さん。それぞれのLife Journeyを聞きながら、ニコニコと笑う白髪頭の青木さんの笑顔が浮かびました。

団体名
特定非営利活動法人SALASUSU
申請事業名
カンボジアでのインターン実証実験と、政策提言の基盤構築

インタビュアー/ライター
宮本恵理子
出版社を経て、2009年に独立。主に働き方やライフストーリー、家族をテーマに取材執筆。最新著は『行列のできるインタビュアーの聞く技術』。