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子育てを「まちの力」で豊かに <前編>ママたちがのびやかに活躍する居場所づくり

みてね基金

認定NPO法人こまちぷらす

  • 目指しているのは「子育てが『まちの力』で豊かになる社会」。多世代が交流できる居場所を中心に、孤立した子育てをなくし、それぞれの人の力が活きる機会をつくることに力を入れている。

  • 人は誰かと関わり、役に立てると実感できることで社会とのつながりを感じ、自信と力を取りもどす。

  • 「みてね基金」の採択後は、創業から10年かけて蓄積した居場所づくりのノウハウを公開するなど、全国各地で理想の居場所を実現したい団体の後押しにも注力している。

「みてね基金」は、すべての子どもとその家族の幸せのために活動する団体を支援しています。第二期ステップアップ助成では、団体が次の成長ステージへ進むため、中長期的な視点から事業や組織の基盤を強化する助成活動を行っています。
採択した団体の1つ、「こまちぷらす」は、親子と「まち」をつなぐ居場所「こまちカフェ」を運営しながら、子育てを応援するプロジェクトをつくっているNPO法人です。
2021年からは、「みてね基金」採択によって組織基盤を強化。各地で活動する団体がその団体らしい居場所づくりを進めるサポートをしています。理事長の森 祐美子さんに活動を始めたきっかけや居場所づくりへの想いなどをお聞きしました。

認定NPO法人こまちぷらす代表 森祐美子さん

「こまち」のママたちが活躍する理由

「人がもつ“原点”の可能性を大切にしています。うれしかったこと、しんどかったこと、経験したからこそ見える景色や強みがあるんです。」

横浜市で、子育てが「まちの力」で豊かになる社会を目指し、活動している「認定NPO法人こまちぷらす」の森 祐美子さんは言います。

「こまちぷらす」では、戸塚駅から徒歩5分のところに、赤ちゃんから高齢者まで幅広い層の人が一緒に過ごせる「こまちカフェ」を運営しています。ランチをしながら人と人とが出会い、「こんなことがやりたい」と自分の思いを語り合うことは日常です。自ら手を挙げて、「こまちカフェ」のコーヒースタンドをDIYで作った人たちも。日々、カフェを中心に多様な声が集まり、アイデアや行動が生まれる「こまちぷらす」を、訪れる人は親しみを込めて「こまち」と呼びます。

DIYで作られたコーヒースタンド
こまちカフェで赤ちゃんと一緒にランチ

「こまちぷらす」の土台作りに力を注ぐのは、森さんをはじめとする子育て中のママたち。できること、得意なことで人と人とをつなぎ、のびやかに活躍する機会をつくり、子育てや街を盛り上げています。

ママが経験を活かして場をつくることにも積極的に取り組みます。たとえば、子どもの発達に心配ごとをもつママたちが専門家たちと話せる「でこぼこの会」、育児と介護を同時に行うダブルケアの女性たちが情報交換できる「えんがわ」など。経験者が先輩ママとして企画を立て、「あったらいいな」と思い描く場を形にしていきます。

おしゃべりをしながら軽作業をする「もくもくの会」

「こまちカフェ」で提供する卵・小麦粉・乳製品・肉類を一切使わない料理やお菓子は、食物アレルギーをもつ子どものママがレシピを編み出し、作り上げたこだわりのメニュー。彩り鮮やかで優しいその味を求めて通う常連の親子も多いそうです。

こまちカフェ 季節の畑プレート こまちセット
こまちセットのデザート

「『こまちぷらす』では、スタッフのみんながお互いの経験や思いを尊重し合うことを軸に毎日人と接しています。誰もが『当事者』という考え方です。『こまちカフェ』でも、活動を始めた2012年からママたちにゆっくり食事してもらいたくてランチタイムには子どもの見守りを実施してきましたが、スタッフは誰も支援しているなんて思っていないんです。

ママもハッピー、子どももハッピー

だから、『こまちカフェ』を訪れた人が子育てで悩んでいても、自分のことのように受けとめて話を聞いています。話を聞いてもらった人の表情がほぐれていくのを見るとこちらまで安心しますね。

『こまちカフェ』に行けばあの人に会える、あの人と話せると思ってもらえているようです。ママたちが自分の経験をまわりと共有することでその人自身の魅力が伝わり、応援者が増えていきます。その繰り返しで人の力はますます発揮され、輝いていくのだと思います。」

人との関わりで自信を取りもどす

「『こまちぷらす』の事業は、社会課題を解決するためというよりも、面白いんです。だからやりたい。学生時代の経験が大きいですね。」と森さんは話します。

大学生の頃、自身が立ち上げたアートによるまちづくりの活動で新潟県の過疎地域を訪れたとき、人の温かさに魅了され、次々にイベントを企画したという森さん。一日限定カフェでは人のつながりから新しい音楽や料理、アートが生まれる瞬間を体感し、カフェの可能性を見出したそうです。

「支援する、支援される、かわいそうだと思う、思われるという関係ではない人のつながりがつくれることも、学生時代の経験で実感しました。」

大学を卒業後はトヨタ自動車株式会社に入社。海外事業関連の仕事を担当していた森さんが、2度の育児休職中に抱いたモヤモヤした思いを前向きなエネルギーに変えられたのも、地域の人たちとの関わりがきっかけでした。

「育児休職中は、家族以外の人に会いたい、誰かと『いいお天気ですね』だけではない会話がしたいと、小さなことで悩んでいるような自分が恥ずかしいと思い込んでいました。でも、戸塚区の子育て会議に参加させてもらったとき、出席者たちの意見がとにかくバラバラで、『いろいろな価値観があっていいんだ』と発見できたんです。

しかも、小さな子どもがいるから何もできないと思っていた自分の意見を『ふむふむ』と聞いてもらえて、『役に立っているんだ』と自信が持てました。」

「街の人との関わりで子育て中の人たちが力を発揮できる場をつくりたい」。育児休職中に芽生えたその思いは、東日本大震災後に「もう明日はこないかもしれない」と決意に変わり、2012年1月に会社を退職。翌月の2012年2月に「こまちぷらす」を立ち上げました。

「街の空気が冷たい」を何とかしたい

「こまちぷらす」では、企業とのユニークなコラボレーションも生まれています。2016年は、宅配便の事業を展開するヤマト運輸株式会社との協働事業が始まりました。戸塚区で赤ちゃんが誕生した家庭に、育児グッズを詰め合わせた出産祝いを贈る「ウェルカムベビープロジェクト」です。展開後は、年々、協賛したい企業が増える大きなプロジェクトとなっています。

「ウェルカムベビープロジェクト」の出産祝い

始まりは、2014年、森さんがスタッフと横浜市に提案した「戸塚に新しい親子の居場所『ひろばカフェ』をつくろう」が「ヨコハマ市民まち普請事業」に認定されたこと。当時、戸塚駅近くの今の場所で「こまちカフェ」を実現するため、準備を整えていたときに、偶然、横浜市都市整備局からヤマト運輸を紹介されたそう。

ヤマト運輸と一緒に物産展をすることになった「こまちぷらす」は、豆腐を出展することに。そのとき、横浜市に住む子育て家庭からの声を集め、横浜市に提出していた最中だった森さんたちは、「子育て中のママたちから、困りごとの声をたくさん預かっているんです」とヤマト運輸の担当者に訴えたといいます。

「当時、1,562件の声が集まったのですが、一番多かったのが、『子育て家庭に対する街の空気が冷たい』という声でした。『何とかしなければいけないですよね』と話すと、ヤマト運輸の方も『実は私たちも子育て家庭の方たちのために何かしたかった』と答えてくれたんです。『ヤマト運輸は、荷物さえ運べれば動けますから』とも言ってくれ、すぐに打ち合わせから始めました。『子どもとその家族のために力を合わせよう』と語り合ったあの時間は、今でもお互いの思いを確認しあえる大切な原点になっています。」

「生まれてきてくれてありがとう」

街からの「出産祝い」として、子育て家庭に育児グッズが届けられる「ウェルカムベビープロジェクト」。届ける過程、また届けた後では、商店街や地域の子どもたちができることで関わっています。街の人たちからの「ようこそ赤ちゃん!生まれてきてくれてありがとう」という気持ちが家族に伝わるように。家族にとって街が居心地のいい場所となるように。

「ウェルカムベビープロジェクト」の出産祝いに必ず入れる『背守り』の刺繍は、子どもの成長を願ったお守りなのですが、ご高齢の方を中心に、いろいろな方が手縫いしてくださっているんですよ。たくさんの人の『おめでとう!』が込められた温かなギフトです。」

子どもの成長を願ったお守り「背守り」

プロジェクトがスタートしてから2022年で6年。これまで計4,200世帯に「ウェルカムベビープロジェクト」の出産祝いを届けました。

「プロジェクトのアイデアをまわりに提案し始めた頃は、なかなか共感を得られなくて苦労しました。事業として成り立つわけがないと厳しい声もあったなか、使命感だけで走り出したプロジェクトでした。でも、ふたを開けてみれば、たくさんの人が関わってくれました。運営面は企業の協賛と寄付で支えられていますが、企業の方々は、子育て家庭を応援する機会をいつも探っていることにも気づけました。」

「こまちぷらす」がある戸塚区から始まった「ウェルカムベビープロジェクト」は、その後、横浜市鶴見区、千葉県松戸市へと広がり、2022年4月からは茅ヶ崎市でも始まることが決まりました。また、「ウェルカムベビープロジェクト」の出産祝いを受け取ったママたちは、毎週オンラインで開催される無料のおしゃべり会へも招待されています。いろいろなママと出会い、夢を語り合い、なかには「こまちカフェ」に足を運ぶ人もいるなど、育児を楽しくするきっかけになっているようです。


後編では、「こまちカフェ」でつながる人たちが起こした奇跡のようなエピソード、また「みてね基金」とともに挑戦していること、「こまちぷらす」が思い描く未来について公開します。

団体名
認定NPO法人こまちぷらす
申請事業
産後の居場所やまちで子育てを応援するプロジェクトの全国展開

インタビュアー/ライター
たかなし まき
愛媛県生まれ。業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。子ども、女性などをテーマに活動中。
フォトグラファー
鳥野みるめ
Lovegraph(ラブグラフ)フォトグラファー。
「写真を残すことを楽しんでもらいたい」をコンセプトに家族を残す写真を中心に由比ヶ浜のアトリエで暮らすフリーランスのカメラマン。

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みてね基金
『すべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界を目指して』〜「家族アルバム みてね」は、5周年を迎えた2020年4月13日に「みてね基金」を開始し、子どもやその家族の問題を支援している非営利団体への助成活動を行っています。本noteから「みてね基金」の各種情報を発信します。