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子どもの発達の不安は家庭で抱え込まないで その子らしい「わんぱく」な成長を応援する

認定NPO法人発達わんぱく会

  • 2010年に設立した「認定NPO法人発達わんぱく会」は、子ども一人ひとりの「その子らしさ」を大切に発達の支援を行う団体です。

  • 周囲とのコミュニケーションに悩み、社会不適応になる方がいることを知り、「もっと早い段階で療育の機会があれば、その人らしい力を発揮していけるのでは」と、子ども向け療育施設を立ち上げたのが、理事長小田さんの活動の出発点。

  • 子どもの心を育てることを大切に、小さな、しかし確実な子どもの成長をお母さんお父さんに伝え、子どもの周りの大人たちの表情も明るくなっていくのが小田さんのやりがい。

「みてね基金」は2020年4月の設立以来、子どもや家族の幸せのために活動している団体を支援する取り組みを続けています。2023年4月には、第三期ステップアップ助成をスタート。支援先として採択された12団体の一つ、「認定NPO法人発達わんぱく会」は、発達障害のある子どもとその家族を支援する取り組みを行なっています。
「発達わんぱく会」が目指す社会のあり方や活動におけるこだわり、「みてね基金」の助成によって始まる新たなチャレンジについて、理事長の小田知宏さんにお話を聞きました。

「認定NPO法人発達わんぱく会」理事長 小田知宏さん

商社から転じて福祉の世界へ
原点は育った家庭環境

うちの子、他の子と比べて発達が心配かも……。

親となれば、一度は誰もが抱える不安ではないでしょうか。
そんな不安に寄り添い、子ども一人ひとりの「その子らしさ」を大切に発達の支援を行うのが、2010年設立の「認定NPO法人発達わんぱく会」です。
理事長の小田知宏さんは東京大学経済学部を卒業後、大手商社で化学品部門の経理を担当。介護保険のスタートによって高齢者介護が新しい産業として注目された2000年にコムスンに転職しました。障害支援事業の責任者を20代で務める中で、発達障害支援というテーマに出合ったそうです。

「きっかけは2005年に施行された発達障害者支援法でした。発達障害のある方の支援に携わるなかで、特定分野に突出した能力がありながらも、周囲の人とのコミュニケーションがうまくいかずに社会不適応となり、悩みを抱えている方がいることを知りました。『もっと早い段階で療育の機会があれば、その人らしい力を発揮していけるのでは』と考え、子ども向けの療育施設を5カ所ほど立ち上げたのが出発点です」

「発達わんぱく会」設立当初の小田さん

小田さんが障害福祉の世界に迷わず飛び込んだ背景には、自身が生まれ育った環境が深く関係しています。幼い頃から重度心身障害者の叔母と同居し、叔母を介護する祖父母も一つ屋根の下で暮らしてきた小田さん。「支え合って生きること」は、常に身近にあったのだとふり返ります。

わんぱくに育ってほしい
団体名に込めた意味

また、「活発で好奇心旺盛で、ものすごく手のかかる子どもだったに違いない」小田さん自身が、大人になるまで窮屈な思いをすることなく、思い切り挑戦できる経験ができたのは、「両親だけでなく祖父母や親戚、地域の大人たちが協力し合って支えてくれた環境があったからこそ」という感謝の念も。

「『発達わんぱく会』という団体名の『わんぱく』には、子ども一人ひとりがわんぱくに育ってほしいという思いを込めています。私たちが考える『わんぱく』とは、自分の意欲に対して素直になって、主体的に行動して、それが成長につながるようなあり方。子どもたちがわんぱくに育つ環境をつくりたい」

核家族化や地域コミュニティーの希薄化が進み、「ワンオペ育児」が社会問題化する今の時代だからこそ、発達障害の子どもたちを社会で支えるシステムをつくりたいという強い思いがあります。

子どもたちを社会で支えるシステムをつくりたい、という思いのもと活動しています

言葉の前に心を大切にしたい
だから丁寧に観察する

発達障害の早期発見・早期療育のために首都圏4カ所で運営する教室「こころとことばの教室こっこ」では、子どもの成長を丁寧に観察する姿勢を大切にしています。教室の名前の最初に「ことば」ではなく「こころ」を掲げたことに、譲れないこだわりがあるのだと小田さんは言います。

「言葉の発達を気にする親御さんは多いのですが、大事なのはまず心を育てること。心さえ育てば、いずれは言葉につながるし、言葉以外の表現方法を獲得することもできる。言葉で自己表現をすることが不得意な子どもたちが、心のなかで何を感じ、何を考えているか。療育のプロである私たちがしっかりと向き合って、『1歳半のあの子はあのとき、こんな気持ちだったのかな?』とチームで真剣に話し合いながら仮説を立てていろいろな反応を試していく。NPOを立ち上げる前の準備期間に、大学の臨床発達心理科目を履修して学んだ手法です。手間や時間がかかるので事業としては非効率ですが、子どもの成長にとってはプラスになると信じて続けています」

子どもの「心を育てる」とはどんな瞬間?

丁寧な観察によって発見されるのは、小さな、でも確実な子どもの成長のステップ。プロの目による気づきを、子どもを教室に通わせるお母さんお父さんに伝えると、明らかに表情が柔らかく変化していくのだそう。

「最初は『この子をどう育てたらいいのか』という絶望感から表情が硬かった親御さんでも、子どもの成長に“兆し”や“期待”を感じられると、顔つきが明るくなっていくんですよね。その変化に立ち会えると、この事業をやっていてよかったなと心から思えます。設立一年目に息子さんを通わせていたお母さんが、今は事業所の近くのコンビニで働いていらっしゃって、たまたまお会いするとお母さんから声を掛けてくれるんです。私が『○○君はもう高校生になる頃ですよね』と話すと、その時のお母さんの表情がハツラツと明るいのがうれしいですね」

子どもの発達支援によって、周りの大人たちの人生も明るくなるという部分に、小田さんはやりがいを感じているそうです。

子どもの発達支援によって、周りの大人たちの人生も明るくなる

発達支援のカギとなる
「早期の発見・療育」をもっと広げたい

社会全体の課題は、療育の開始をもっと早めること。自治体の児童福祉課に申請して始まる国の支援では、どうしてもスタートのタイミングが遅くなる傾向があるのだと小田さんは指摘します。

「発達支援はアプローチが早いほど効果があると言われていますが、現状としては保育園や幼稚園で他の子どもたちとの関わりが増える3歳以降に支援が始まる例が大半です。臨床的な経験から、はっきりした自閉症の傾向があって他者との関わりに関心が薄いお子さんでも、1〜2歳の時点から療育を始められると、発達が順調に進む感覚があるんです。できるだけ多くのご家族が療育を早く始められるきっかけを提供できるよう、私たち独自のモデルを活かした児童発達支援事業所の開設・運営をサポートするコンサルティング事業にも力を入れています」

行政の力だけでは届かない部分まで課題解決できるのは、NPOならでは。チェーン展開する株式会社を含めて40社ほどに、早期発見・早期療育のノウハウを提供してきた実績があります。
さらに広げるための人材育成や事業成長のプランニングと実践が、「みてね基金」の助成によって進んでいきます。

子どもの長所を伸ばし、生きる力を育てる「こころとことばの教室こっこ」

最後に、子育て中のママ・パパへのメッセージとして、小田さんは「どんどん周りを頼ってください」と強調しました。

「発達支援に遅過ぎることはありません。何歳になっても、『この子には、この子にあった支援が必要だ』と気づいたときが、最適なタイミングです。児童発達の分野には多くの専門家がいて、ほとんど料金負担なく支援を受けられる仕組みがあります。困った時には家族だけで抱えずに、みんなで子育てをしていきましょう」

また、「わんぱく」が意味する多様性についても理解してほしいと小田さん。

「外で元気に走り回るだけが『わんぱく』ではなく、好きなゲームに没頭するのも、一つの『わんぱく』の形です。要は、その子の主体性を尊重できるかどうか。私自身、自分の人生の糧になったのは、主体的な経験だったという実感があります。子どもたちが自信を持って人生を前に進める力につながるような、豊かな経験ができる環境を一緒につくっていきましょう」


<取材後記>

小学生の頃には自然遊びが大好きだったという小田さん。ベランダに鳥籠を並べてジュウシマツを繁殖させ、飼育用鳥の卸業を営むご近所さんに1羽50円で販売した経験が、「事業をつくる面白さ」を知る原点だったとか。見てきた風景、得てきた経験のすべてを生かし、子どもたちの可能性を本気で信じて応援する姿が、本当にイキイキと輝いて見えました。(インタビュアー/ライター・宮本恵理子)

「大事なのはまず心を育てること」という小田さんの言葉がとても印象的な取材でした。子の幸せを願う親としての切実な想いが、時にさまざまな情報に翻弄させられることがあります。そんな時、目の前にいる子どもの心を感じ、触れ合うことが、きっとどんな子どもの成長にも大事なことなのだろうな、と思いました。(みてね基金事務局・関)

団体名
認定NPO法人発達わんぱく会
助成事業名
発達わんぱく会の10年後を創造するプロジェクト

インタビュアー/ライター
宮本恵理子
出版社を経て、2009年に独立。主に働き方やライフストーリー、家族をテーマに取材執筆。最新著は『行列のできるインタビュアーの聞く技術』。


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