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「あそびこそ最高の学び」子どもと大人が一緒に “成長”できる学童保育

NPO法人Chance For All

  • 子どもの「小さな変化」を見逃さない。大人に対する子どもの「自分をわかってくれる」につながるから。

  • 思いきり遊ぶ経験や思い出は、子どもが悩みを解決できる力になる。

  • 「自分の子どもはスペシャル」を真ん中に悩みながら子育てしよう。

「子どものために大人ができることって何だろう?」。子育てのこの大きなテーマに、とことん向き合う学童保育があります。「NPO法人Chance For All」(CFA)が運営する「CFAKids」です。CFAがこだわり続けてきた、すべての子どもが自分らしい成長を実感できる放課後について、代表の中山勇魚(なかやまいさな)さんにお聞きしました。

NPO法人Chance For All 中山勇魚さん

子どもの成長を見逃さない

「職員とよく話していることがあります。それは、『子どもに成長を求めない』です」と、中山さんは「CFAKids」で大切にしていることの一つについて話してくれました。

「でも、成長は見逃さない」

中山さんは言います。「子どもはみんな一人ひとりのペースで成長をしている」と。でも、大人が成長を“求めて”しまうと、子どもは実際の成長とのギャップを感じてつらくなってしまうのではないか……。中山さんはそう危惧していました。「だから、今まさにどう成長しているか、その小さな変化を見逃さないことが大事なんだと思います」

例えば、すぐにカッとなって手が出てしまう子どもがいた場合、手を出したことだけを職員が保護者に伝えると、保護者は「またなの!?もうやらないって約束したじゃない!」と、その子を叱るかもしれません。

でも、実は、相手から先に悪口を言ってきたという理由があり、さらに、手を出しそうになったけれど一度は我慢したところを職員が見ていたとします。「前回に比べるとすごく我慢しようとしていましたよ」と、職員のこの一言で、保護者がかける言葉も変わります。「えらかったね。でも、やっぱり人を叩くのはよくないから次はもう少し頑張ってみようね」と。中山さんはこう話します。

「子どもは、自分が我慢したことをうまく言語化できない分、身近な大人が自分をわかってくれることがうれしいんです。職員が気づき、保護者に伝え、保護者が褒めてくれる。すると、『次はもうちょっと頑張ろうかな』と思える。自分の頑張りをまわりが受け入れてくれる、知ってくれているという体験から、前向きな成長が自然と生まれていくのだと思います」

「子どもの成長を見逃さない」

20年越しの学童保育。集まった子どもはわずか4人だった

「学童保育をつくりたい」。中山さんがこの想いを抱いたのは約20年前、大学生の頃でした。中山さんは高校生の時、家庭の事情で家族が夜逃げし、都内のホテルやウィークリーマンションを転々とするなど、生まれ育った環境によって自分の人生が大きく動いてしまうことを経験しています。以来、困難な状況の子どもたちのためにできることを探し求め、出会ったのが学童保育だったのです。

「自由な空間で、子どもたちが輝いて見えました。遊べる場があれば、子どもたちが抱えている問題はほとんど解決できるのではないだろうかと思ったんです」

子どもが自由に遊べる空間、学童を作りたい

大学時代のアルバイト先として、学童保育を経て入った教育系テーマパークでは、藤場恵見さんと馬場晃太郎さんと運命の出会いを果たし、時にルームシェアをしながら、社会人になってからはそれぞれ別の仕事をしながら理想の学童について語り合うこと約三年。2014年、三人で一緒に、足立区で念願の学童保育「CFAKids」の開所を実現させました。

「僕たちにとって、満を持して、の開所でした。まさに『最高の学童保育』ができたはずだったのですが、子どもは4人しか来てくれなくて(笑)」

学童開設後、はじめてのお花見遠足

あまりにも予想外な幕開けでしたが、中山さんたちは開き直ったように、とにかく遊びました。「すごくおもしろいことをやろうぜ!」と、みんなでやりたいことをやって、行きたいところに行く、遊びたい放題の毎日です。魚について議論になったときは、「じゃあ魚を見に行こう」と鮮魚店に行って盛り上がったことも。

アフロマンになって子どもと遊ぶ中山さん

大人と子どもが友だちのような関係性で遊ぶ。そんな中山さんたちを応援したのが、「CFAKids」に子どもを預けていた保護者でした。「すごくいいからCFAKidsに入ったほうがいいよ」とクチコミを広げたことで、あっという間に入所希望者が増え、子どもは定員の30人に。それからもどんどん申し込みが増え、一号舎の開設から9年経った現在は、足立区と墨田区に9校舎を展開するまでに成長しました。

また、家庭の経済状況によって、子どもたちの放課後の体験格差が生まれること(塾に通う・通わない/水泳を習う・習わない等)に課題を感じていた中山さんは、後に、寄付による奨学制度を作りました。これにより、経済的な困難を抱える家庭の子どもたちが無償で「CFAKids」に通えるようになりました。

10周年を迎えて、子どもたちの「楽しい!」をもっと大事に

「2023年4月でCFAは設立10周年を迎えましたが、実はこの一年ほどで『CFAKids』の方針が変わったんです」と中山さんは話します。設立当初から、中山さんたちが力を入れてきたのは、大人と子どもが一緒につくることをベースに、子どもが生きるための「実力」を身につけることでした。さまざまな体験をできる機会、柔軟な思考力を養うグループワーク、コミュニケーションワークなど多種多様なプログラムを実践したほか、学習面のサポートにも熱心に取り組みました。

CFAプログラムの一つ、初夏の田んぼで田植え体験

現在の放課後づくりでは、プログラムの数を大幅に減らし、「毎日、子どもたちが友だちと一緒に、明るく楽しく生活できる時間」を大事にしています。子どもたちの「やりたい!」「楽しい!」気持ちに寄り添って、ゼロから遊びを自分たちで作ります。

今日は何をしよう!

幸せを感じられるから頑張れる

設立10周年にあわせて、ビジョンも変わりました。この一年の間に活動方針について仲間と何度も話し合を重ねた結果、CFAのあり方に大きな変化を起こすことを決めたのです。

子どもたちへの想いは、「どんな環境で生まれ育っても、自分の実力を高めることで幸せになってほしい」から、「すべての子どもが幸せを感じられるその先に、ひとり一人のその子らしい成長があるはず」へ。

「多くの子どもは生まれてきたときから親に無条件で愛されて、大事に育てられてきました。自分が身近な大人に愛されているという実感から前へ進む力が湧き、頑張ったと認められることで自信が生まれ、自分を好きになっていく。昔はこうやって少しずつ成長していくのが当たり前でした。でも、今の子どもは求められることが多い環境で、期待に応えようともがいているように見えます」

木の上でウクレレ弾きながら

子どもの苦しさを一緒に乗り越えるために

「子どもたちは言葉にはできない苦しみを抱えているように感じます」。中山さんは、世の中の子どもたちへの印象をこう一言。

「自由な時間もなくて、まわりの大人に対しては心から信じられるかどうかわからなくて、でも、自分が置かれている状況を『こんなもんかな』となかば諦めているようにも見える。行き場のない苦しさを感じます」

なぜ、子どもたちはそんな気持ちを抱くようになったのか、その理由は明白でした。「社会と大人の閉塞感が伝わって、子どもたちも不安なんです」と中山さん。

「昔のようにいい大学に入って、いい会社に入れば幸せ、というわかりやすい幸せの指標がなくなって、一生懸命頑張って働いても評価されにくい。いつどうなるかまったくわからない。幸せを感じることが難しい世の中になっていると思います」

では、先が見えにくく解決先もなかなか見つけられない今の社会で、大人は子どもに何ができるのでしょうか。中山さんの答えはこうです。

「楽しい、うれしい、悔しいといった感情を実感できる経験が大事です。いろいろな経験を積むほど、地に足のついた人生が送れるのではないかと思っています」

大人が楽しんでいる姿を子どもは見ています

スポーツや趣味でもいい。家族で一緒に旅行をし、「楽しかった!」とうれしい気持ちになれる思い出も、自分だけの特別な経験となり、たとえ辛いことがあってもきっと支えてくれる。経験値を高めていければ、たとえ評価されにくい社会でも幸せを感じながら生き抜いていけるはず。中山さんはそう考えています。

子どもが自由に遊び、選択することの大切さ

CFAでは、この数年間で、地域や企業と一緒に新しい「遊び場」を二つ創りました。

一つめは、墨田区の町工場から提供された素材で遊ぶ「あそび大学」です。キャッチフレーズは「あそびこそ最高の学び」。ルールはたった一つ、「自分や友だちを傷つけない」

廃材でクリエイティブに遊べる「あそび大学」

「あそび大学」が始まったきっかけは、「墨田区の町工場で出ている廃材をおもちゃとして使えませんか?」という「CFAKids」に通う子どもの保護者からの申し出でした。無料で、誰もが平等に、クリエイティブに遊べる、と大人たちは直感。そうして、千葉大学の協力のもと生まれました。

「僕たちは勉強と同じくらい遊びも大事だと思っています。勉強の最高峰が大学なら、遊びの最高峰は『あそび大学』です」

遊びの最高峰「あそび大学」ではどんなことをする?

学校ではつまらなそうにしている子どもも、「あそび大学」ではヒーローでした。実はアイデア豊富で、みんなの中心になって遊ぶ力をもっている。そんなその子の姿を見た教師たちが、「自分たちはこの子の良さをわかっていなかったのかもしれない」とつぶやいたこともあったそうです。

「抑圧されることが当たり前の学校という環境下で、その子は、自分の本来の良さが出せないままだったのかもしれません」と中山さん。

CFAが創った新しい「遊びの場」の二つめは、大学生が足立区で運営する駄菓子屋「irodori」です。お店の奥のフリースペースには、子どもたちがおしゃべりをしたり、漫画を読んだり、自由に過ごせる空間があります。ときに、自分よりも年下の子の面倒を見たり、大学生のスタッフに代わってお客さんを案内したりと、誰かが活躍できる場所にもなっているようです。

「穴を掘るのがうまい、団子をまるめるのが上手など、学校では評価されにくい特技にスポットライトが当たる経験を重ねることが大切です」

CFA大学生ボランティアによって運営されている
駄菓子屋「irodori」

自分の子どもはスペシャル

最後に、不安材料が多い社会で、それでも子どものために毎日頑張っているママやパパへ、中山さんからアドバイスをいただきました。

「子育てで悩むのは、ほかの子どもと比べるからだと思うんです。勉強ができない、学校に行けないなど比較評価してしまう。とにかく比べないことが大事だと思います」

ブリッジしながら見える景色は?

大事なのは、目の前の子どもを見る、話を聴く、信じること。ただ、どうしても比べてしまいそうになったときはどうすればいいのでしょうか。そう投げかけると、中山さんは「僕たちもよく反省するんですよ」と苦笑い。

「『自分たちが正しいと思ったら教育者として失格だ』と職員にもよく話しますが、僕も職員もみんな左右に揺れながら、悩みながら歩んでいます。『自分の子はスペシャル』という思いを心の真ん中に置きながら、日々、悩むことが大事なのではないでしょうか。子育てってそういうものじゃないかなと思います」

どんな時でも「自分の子はスペシャル」

<取材後記>

とても気さくで優しさあふれるお兄さん。今回、初めてお会いした中山さんにそんな第一印象を抱きました。相手を思いやりながら伝えたいことをわかりやすい言葉で丁寧に話す。私に向けてくれたそういった姿勢で、普段、子どもや保護者の方、CFAの仲間のみなさんと「楽しい!」場を創られているのだろうと想像できました。取材、楽しかったです!(たかなしまき)

「あそびこそ最高の学び」を掲げ、邁進する中山さん。そう言ってくれる大人がいることで救われる子どもや親御さんはたくさんいるのではないでしょうか。今の子どもたちが大人になった時、社会はどう変わっているのか分かりませんが、遊び、創造性、楽しさ、と言った感情が大人も子どもももっと感じられる世界はそんな悪くない世界だと思いました。(みてね基金事務局 関まり)

団体名
NPO法人Chance For All
助成事業名
だれでもいつでも通える居場所と放課後ソーシャルワーカー

インタビュアー/ライター
たかなし まき
愛媛県生まれ。業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。子ども、女性などをテーマに活動中。